生産力を上げるなら聞いて読め

主にアップルのAirpodsとkindleアプリを使って「耳」で本を読んでます

読み上げの欠点、そして誤読の直し方(iPhone編)

さてさて、airpodskindleアプリのタッグは極めて強力なのだが、日本語読み上げ時の大いなる欠点は、漢字をキチンと読んでくれない、に尽きる。

 

例えば、

山々 ⇛ やまくりかえし

立花⇛りっか

姉さん⇛あねさん

自己⇛じいつき

なんて読まれるので、くせを知らずに聞いていると何だ今のは?となるし、内容が全く違って頭に入ってしまうことも多い。

 

例えば、

大柄⇛おおへい

「大柄な若者が入ってきた」が、「おおへいなわかものがはいってきた」となり、聞いている身としてはそうか、「横柄な若者」が入ってきたのか、と認識してしまう。その後の若者の描写が真反対で混乱したりすることも。

 

ちなみに私の一番好きな誤読は、

現生人類⇛げんなまじんるい

である。サピエンス全史とか、ジャレド・ダイアモンドの著作を読むとしょっちゅう出てくるのでおかしみがある。

 

サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史 上下合本版 文明の構造と人類の幸福

 

 

あの「サピエンス全史」は聴き読みオススメ本の最右翼の1つですよ。

超ベストセラーだから、読みたいと思いつつ、読めていない人多いのでは。

こういう本こそ、耳から受動的に頭に入れていくのが良いのです。

疲れずに読めますよ。もっとも一定の知識があると格段に楽ですが。

 

内容的には、序盤の、人間は共通のファンタジーを生み出すことで仲間と協力できるようになったって展開とても新鮮でした。そうか、宗教ってそういう役割なのね、と。

 

歴史ものは誤読のオンパレードだ

 

歴史上の人物であったり、元号であったりは大人であっても読み方が難しいものだが、それにしてもiphoneさんはちゃんと読んでくれないのだ。

 

蒲生氏郷(がもううじさと)⇛がもうしごう

大坂城(おおさかじょう)⇛おおさかいつき

雪斎(せっさい)⇛ゆきいつき

北条(ほうじょう)⇛きたじょう

信長公記(しんちょうこうき)⇛のぶながいさおき

伊達政宗(だてまさむね)⇛だてまつりごとしゅう

 

しごうはまだしも、だてまつりごとしゅうって何よ?ってなもんで、デフォルトで読み上げを聞いていると、ちょっと気分が冴えなくなってくるわけです。

 

耐えきれない誤読は修正しとこう

 

大抵の場合は、誤読も慣れてくるので、聞いても脳内変換していけばいいのだが、それでもやっぱり直したいなあと思うことも多い。

そんなわけで、修正の仕方。

 

iPhoneの場合、

設定⇛一般⇛アクセシビリティ⇛スピーチ⇛読みかた

で登録すればいい。

 

解決ですね。一応ビデオをどうぞ。

 


iPhone読み上げ機能の誤読を修正する

 

 

 

太原雪斎と今川義元 東海に覇を唱えた軍師と名将 (PHP文庫)
 

 

 宮下英樹の「桶狭間戦記」で義元と雪斎のファンになったのならこちら。所々異同はあるけれど、桶狭間戦記で予習をしていたなら、義元と雪斎の出会いから、その最期までかなりすんなり頭に入ってくるはず。
義元の女性への関わりは無いので、そこらへんも知りたいところだけど。

 

 

宮下英樹「センゴク外伝 桶狭間戦記」

すみません、読み上げで読んだのではないですけど。

 

 

 

センゴク」シリーズの外伝。本作の主人公は今川義元である。えぇ?と思いません?


今川義元ですよ?


あの公家ばりにお歯黒して、ほんとに武士かよ?みたいなナヨナヨした外観で描かれることが多く、輿の上で殺されたという。

 

あの桶狭間を描くというのであれば、信長と思うじゃないですか。

 

ところが本作の主人公は義元であり、義元の養育を担当し後には軍師的役割をした雪斎なんですよ。まあ雪斎の今川家における活躍はほぼどの作品でも描かれているのでわかる。多くは、どうしようもない義元も、雪斎が居るから領地運営が成り立っているのであり、雪斎なければすぐにも滅びるだろう、現に死去後ほどなくして桶狭間で敗れているのだ。

 

この前読んだ「信玄の軍配者」なんかではひどい書かれようでしたよ義元さん。

 

という義元だが、実際には名君であった。というかそうでなければできないことを沢山している。そもそも、雪斎が優秀であればあるほど、そんな人が側に居続けるためには、主としてまた弟子として魅力が無ければありえないと思えるわけだ。そして、「戦国武将の実力」を読めば、義元は領国の商家に随分な自由を与えつつ年貢収入を増やし、国を周辺国に比べて一際豊かに運営したのみならず、第二次川中島合戦において武田信玄上杉謙信の和睦調整を成立せしめるだけの実力を持っていたこともわかる。

 

そんな義元の名君ぶりを本作は描く。ADHD気味に描いているのは信長なら従来からあったが、義元では新鮮。もちろん義元の人物像は作者の想像ではあるが、こんな人ならば、上記の領国経営の巧みさ、雪斎が常に側にいたこと、岡部孝信のような家臣が忠義を誓い(彼は織田方から首を返還せしめたのだ。義元が暗愚だったらそんなことしないだろう)闘ったことも納得がいく。それに義元は史実でも勇壮だった。織田方武士毛利新助に首を取られるわけだが、彼の前に斬りかかってきた武士には手傷を追わせているわけで、軟弱じゃなかったのよ。

 

 

本作は勿論若き信長も丁寧に描く。信長が銭の確保に領国の安定を、支配の拡大を約束することを見抜いた過程を描き、ココらへんも、武芸のみが強調されて描かれがちな他作品との違いだろう。生駒の方との恋愛もまた新鮮。

 


さてさて、本作では事あるごとに強調されるのが戦国時代は実は小氷河期にあたっており、普段は雪など見られない場所時期にも雪が振り,それがため米の収穫が劣り、飢饉に見舞われた大変な時代であったことである。そういった視点が無いと、戦国大名たちが群雄割拠した時代の成立要因がわかりかねるというのはずっと昔に習いたかったことだな。

blogos.com

 

著者の宮下英樹は現地取材を入念にしている漫画家だが、あとがきにこう書く。


今川義元という人物との出会いは、格別に幸せなものでした。義元を知れば知るほど、同時代の誰よりも先進的で、カリスマを備えた大名だと強く感じるようになりました。」


本作を読めば自分も一度墓所に手を合わせたくもなる。
そう、義元は戦時においても自軍の兵士に戦闘地での略奪、強姦、暴行行為などを許さなかったという。現代的価値観から見ても素敵な人だと想像できるというものだ.

 

 

信玄の軍配者(上) (中公文庫)

信玄の軍配者(上) (中公文庫)

 

 

山本勘助の名前をよく知らないとさ、本書を読んで、足利学校すげーとか、親友たちが北条や上杉のもとで活躍してて、なんだかすんごい友情話が戦国期にあったのね、と感嘆してしまうが、創作ですよね。そもそも勘助自身の存在がどれだけのものだったかもわからないので、まあ勘助に仮託した戦国小説ですな。語り口は上手いし、面白いですよ。うん。勘助の苦労には泣かせられます。でもでも実際にはどうだったんだよう??と思ってしまう私はひねくれ者ですみません。もう一度言いますが、面白い良い小説です。でも完全なフィクションです。これで山本勘助像を頭に作ってはいけません。

 

 

王になろうとした男 (文春文庫)

王になろうとした男 (文春文庫)

 

 

義元を屠った毛利新助のことを知りたくば。かっこいいですよ。不器用だけど。親友だった(ほんとは?)塙直政との生き方との対比、よく書けてますね。

 

 

 

 

ペルー日本大使公邸襲撃事件の話

あのペルー日本大使館襲撃事件の話。著者は自ら人質でもあり、当時は元ペルー海軍の提督、後にアラン・ガルシア政権で副大統領になった人。事前にNHKの日本人人質の回想を読んでいたのだが、日本人は事件解決に置いては完全に蚊帳の外に置かれていたので、あの時何が起きていたのかはよくわからなかった。本書で、初めてフジモリ政権が具体的にどのように作戦立案をし、そして中の人質の暮らしぶりと、果たした役割が理解できる。著者を含めた多くの人質が理性を保ち、126日もの長い間1人の犠牲者も出さずに過ごしたのだから凄いことなのだ。

 

日本大使公邸襲撃事件―占拠126日と最後の41秒間

日本大使公邸襲撃事件―占拠126日と最後の41秒間

 

 

とはいえ、あの事件に関しては以前より様々なわだかまりを持つ。例えば日本政府が蚊帳の外に置かれ、非常に情けない役回りしかできなかったこと(という認識)、日本人は人質に置いても蚊帳の外だった件(という認識)、そしてテロリスト全員射殺というのが正しかったのかどうか、など。

 

 

全員射殺に関して釈然としない感情を持ってしまうのは、彼ら全員が筋金入りのテロリスト(MRTA)というだったわけではなく、半分は山の奥地で誘われた10代の少年少女だったからだ。彼らはそもそもMRTA幹部たちと違って政治思想を強く持っているわけでもなく、人質の、特に日本人たちと親しくなってしまったりする。そのうちの少女1人は本書の著者いわく日本人の若者と恋仲になってしまった。そして彼女は最終局面で日本人を撃つことに躊躇し、引き換えしたところを突入部隊によって射殺されるのだ。非常に切ない場面で、悲しい気持ちにならざるを得ない。彼らはあまりに純朴で、この仕事(大使館立てこもり)が終わったら、ペルー軍に入るとか、日本に行く、とか言っていたらしい。脳天気もいいところ、というか騙されて連れてこられたようなもんなのだ。

 


とはいえ、突入軍の方針である全員射殺は状況を考えれば致し方ない作戦なんだろう。誰が襲ってくるかわからないわけだし。事件解決後、ペルーでは反フジモリ派が力を持ち、突入軍の「罪」が問われてしまうのだが、それは理不尽だろうと感じる。突入軍の指揮官バレル中佐は逃げ出す人質をかばってあっという間に殉職もしてしまい、読んでいてその場面が一番辛い。

 


ペルー政府、すなわちフジモリ大統領の非情ぶりは、著者によっても人質の立場としてはという但し書きで強調されるが、そこの是非はかなり微妙に感じる。確かにあのときの橋本政権のものの言いようは、本書冒頭で佐藤優が非難気味に述べるように軟弱でテロ対策をわかっていない、と言えそうだが、そうはいってもあれがあったからこそフジモリ政権も強行策実行まで随分待ったし、テロリストと交渉しないというのも、決して世界標準ではないこともわかる。ある意味、この事件では日本人の甘さが結果的には人質の命を救ったと思えてしまうのは私だけか。

 


また、日本人人質たち。恐らく著者を始めとした日本人達以外からすると余りに無防備で、かつテロリストたち(彼らはゲリラとみなされたかったらしい)と親しくなりすぎに見えただろう。でもそれがあったからこそ、テロリストも土壇場で人質を殺せなかったのだ。テロリストたちがプロ的でなかったのも幸運だったが、事件解決に蚊帳の外的だった日本人も実は人質全員無事(正確には解放後に1人死亡)に果たした役割は大きかったのではないか。無意識なればこそだけども。

 

 

 

これは日本人商社マン側からの人質事件。ジャンピエトリの本では非常に影の薄かった、日本人民間人の物語。

 

頑張りましたね。日本赤十字の看護婦さんたちが役立たずと思われながら、トイレ清掃に頑張ったお話など日本人としては複雑だが大事な役割を果たしてくれたことには感謝。

 

 

封殺された対話―ペルー日本大使公邸占拠事件再考 (20世紀を読む)

封殺された対話―ペルー日本大使公邸占拠事件再考 (20世紀を読む)

 

 

こちらはジャンピエトリには甘いと言われそうだが、テロリスト全員射殺に対する違和感を、人質当事者として抱き続けている側から。

 

実はまだ読みかけだが、ジャンピエトリ本はあくまでも制圧側からの視点でテロリストそれぞれを書いているが、本書では1人の人間として彼らが実際どのような背景のもとに育ち、ああいった行動に至ったのかがより重層的に描かれている。

 

部外者としてはやはり日本人の感覚は甘いのか、という部分を捨てきれない、いや自分も本書の小倉氏のように釈然としないと思うんですよ、ああいう完全制覇は。一方では勿論、人質全員救出できたことは称賛すべきとわかってはいるんですが。

 

ペルー兵士が突入した際に、テロリスト側の女性が日本人人質に銃口を向けながら結局撃たなかったのは、日本人の甘さが役立ったんじゃないかなあ。

 

ところで、ジャンピエトリ本でテロリストと日本人の若者が恋仲になったと書いてあるけど、一体誰なんですか。

 

 

19歳の殺人

 1992年3月に市川の一家四人が殺害されるという衝撃的な事件があった。

 

市川一家4人殺人事件 - Wikipedia

 

本書は死刑判決の確定したその犯人に対する交流の記録である。どうしてそんなことになったのか、当然ながら筆者は犯人の生い立ちにも理由を求め、アルコールで身を持ち崩した父、1人で頑張って犯人と弟の生活を支えた母、その母子家庭に温かい目を注いだアパートの大家夫婦などのエピソードを重ねていく。少年時代の犯人の生い立ちを読むと、その過酷な試練に同情せざるを得ない。また、そんな中で少なくても小学校時代までは素直な、到底後に凄惨な殺人を引き起こすようには見えない。おかしな方向に転がっていくのは、身体的にも強くなった中学生時代に良い環境が周囲になかったようには見える。

 

19歳 一家四人惨殺犯の告白 (角川文庫)

19歳 一家四人惨殺犯の告白 (角川文庫)

 

 

私は職業柄、犯罪を犯した犯人の精神鑑定書を読む機会もあるが、確かに多くの犯人がそのような過酷な幼少期を過ごしていることは多い。そう考えると良い環境、良い大人、良い教育に恵まれればそんな犯罪を起こさなかったように思えてしまう。

 

当然筆者もそうだが、犯人自身がそんなことは無いと真っ向否定する。5歳下弟も、同じように過酷な環境下で、しかも犯人である兄にはひどく暴行を受けて育ちながらも穏やかで犯罪行為とは無縁な状態にあることを引き合いにだし、自分には「生まれ持った犯罪者としての根っ子の部分は、永久に変えられない」と語る。

 

犯人自身のこの告白は興味深い。これまでの犯罪研究を考えると、後天的ではなく先天的に犯罪に向かう志向があること、すなわち遺伝的に規定されている部分があることは確かにありそうで、犯罪予防を幼少期から行うことが確立されないと、同じような悲劇は今後もあるだろうとは思う。

 

さて、大量殺人を犯した犯人の犯行への振り返り、拘置所内での行動に筆者は違和感を募らせる。今更反省しても殺した人間たちが返ってくるでもなく、読経はするが、そういった行動は自己満足に過ぎないと語り、自分の周りにいた大人たちへの恨みを語る、そういった犯人に筆者は落ち込んでいく...。

 

どうだろう、筆者はどうも犯人にわかりやすい反省と悔恨の情を求め過ぎな気がして、読んでいてそっちの方に違和感を感じもした。殺された側の家族としては、何があったって癒やされるものではない。犯人の心情は「おかしい」かもしれないが、実際その通りでもあり、だからこそ犯罪というのはやりきれない、あってはならないものだと感じるのだが。そういう意味で筆者のナイーブさにはやや残念が気もしたが、とまれ読んで良かった。

 

真田丸に見る秀吉の黄昏とアルツハイマー病

さて、遅ればせながら私は三谷幸喜脚本の大河ドラマ真田丸」に夢中になってしまったりしてます。

 

www6.nhk.or.jp

 

正直これまでに見たドラマのベストなんですが(もちろん他にも沢山いいのはあったけど...)、精神科医的に心が癒やされたのが、老いた秀吉と、その介護にあたる真田信繁(後の幸村)を描いている第30章「黄昏」の回。

 

この回描かれるのは秀吉晩年。第二次朝鮮出兵の直前。秀吉はその才気と陽気で人たらしの性格を使ってのし上がった上に織田の天下を継いだ言わずしれた戦国の英雄。しかし、晩年はとにかく老いた故か、朝鮮出兵のような後に禍根を残すことになる施策や、秀吉をからかった落書きに対して周囲さえついていけない残酷な仕打ちを番の者たちにしたりしてしまっている。

 

それはともかく今日話題にしたいのは、認知症になった秀吉に付き従い、甲斐甲斐しく世話をする真田幸村の姿。

 

キャプチャー映像を見ながら(著作権気になりますがこれはきちんとした引用と解釈して欲しい...)。

f:id:neurophys11:20180913234815j:plain

 

秀吉の側に呼ばれた石田三成片桐且元。秀吉脇には真田幸村(当時は信繁)が付き従う。老いを悟ったのか秀吉は三成と且元に金子を渡す。脇にいる幸村に気を使う且元は「信繁には?」と秀吉に問うと、秀吉は信繁の顔をしげしげと眺めて「(こんなやつは)知らん!」と(1)。

 

「我々は長い付き合いだから」と三成・且元に信繁は気の毒そうな目で慰められるが、彼らが去った後瞑目し、ショックを隠せない(2)。そりゃそうだろう、これだけ甲斐甲斐しく世話を焼いているのに存在を忘れられてしまったんだから。

 

そこへいつの間にか近づいていくのが秀吉(3)。なにやら様子がおかしい。ちょっと来い、ちょっと来いと信繁を障子裏に手招きして一緒に隠れて「遅いのう、市松(福島正則の幼名)は」とつぶやく。

 

このシーン,実は信繁が始めて秀吉と直接会った日の再現で、以前はこのまま秀吉について芸者遊びの場に抜け出すのだが、老いた秀吉は今その過去に戻っているのだ。そこに気づいた信繁は当時と同じように初めてのふりをしながら、「もしや秀吉様では?」と(4)。振り向いた秀吉はここで信繁の心を救う一言を。「わしは利発な若者が大好きなのじゃ。そちも一目見て気に入った!」と。

 

しばし過去の再現に付き合った信繁は優しく秀吉を床に誘導し、休ませる(5)。 

 

この姿が真実であるかは置いといて(いやこの下りのすべてが三谷氏の創作なわけですが)、このシーン、本当に好きなのだ。

 

かつての姿を失っていく認知症の秀吉、我慢して、時にすごいショックも受けながら介護する信繁の姿、そして過去を生きる秀吉は信繁に会うとかつてと同じ反応...認知能力は落ちても人格の核の部分は変わっていないところに介護者が救われる場面。いや、脚本の三谷氏、ほんとに優しい。晩年人格が変われども秀吉に尽くす信繁に救いを与えてくれた。

  

認知症のご家族は経験している方も多いと思うが、時に認知症、特に過去の記憶も次第に失っていくアルツハイマー認知症では子どもや配偶者の顔を忘れてしまう。過去にさかのぼって生きているのだとしたら、そりゃあ目の前の老人がかつて愛した人だったり、中年男女が自分の可愛かった子供であろうはずが無いもんだ。そう、若い頃の写真を見せれば思い出してくれるかもね、と思いますが、やったことは無いのでどうなんでしょう。

 

ところで、秀吉は恐らくアルツハイマー認知症として描かれていると思うのだが、それにしては易怒的となり、人格変化がやや強い点でアルツハイマーではなく、以前本blogで書いた、嗜銀顆粒性認知症なのかも、という気もしたりする。

 

neurophys11.hatenablog.com

 

 

真田四代と信繁 (平凡社新書)

真田四代と信繁 (平凡社新書)

 

 

 時代物を読んだり見たりすると気になるのはどこまでが事実なのか演出なのか、そして虚構なのか。

本書はドラマの時代考証を担当した丸島氏による真田信繁論なので、非常に参考に。

また次のネット記事、丸山氏へのインタビューで、非常に誠実に考証されたのだとわかる。リアルタイムでは詳細なツイートしていたとのことで、あぁその時に知っておきたかった。

 

toshin-sekai.com

 

 

 

ところで、真田丸を見て印象が変わった最右翼といえば石田三成じゃなかろうか。ちょっとドラマではかっこよすぎな気もするが、有能であり、秀吉への忠誠心は本当だったのだろう。ほんと、惜しいよ、三成さん。もっと天下のことを考えて生き残って欲しかった。もしくは大阪の陣までいてくれれば...それは無理だったかな。蓄財を全くしていなかった真面目さが胸を打つ。 

 

 

知られざる名将 真田信之 (だいわ文庫)

知られざる名将 真田信之 (だいわ文庫)

 

 

ドラマでは信之はやや情けない描かれ方をしていたが、この人なくして真田家は幕末まで残らなかったのであり、超名君である。あの時代に93歳まで生きたのだ。暮らすなら信之殿の下がいい。

 

 

峠越え (講談社文庫)

峠越え (講談社文庫)

 

 

ドラマ真田丸では当然家康は信繁の仇敵になるのだが、三谷氏の家康なかなか気弱な人でユーモラス。特に序盤、信長死去の方に触れた時家康は京都に行く途上であったため、急ぎ国に帰る必要があったのだが、その時の「伊賀越」の描き方は、気弱な家康が随所で覚悟を決めつつ三河に帰り着く様がとりわけ面白かった.

さて、信玄や信長に怯えつつしかし結果的にはそれら重しを除いていける家康の知謀を描いたのがこの小説。フィクションですよ、もちろん。でもこの線で小説の後も読みたいのだが...。

 

抗NMDA受容体脳炎、ペイパル創業者、山野井泰史、数学の天才

 

脳に棲む魔物

脳に棲む魔物

 

 

これはすごい。

著者、スザンナ・キャラハンは本にある病気になった時24歳。
訳者のあとがきにあるように、本書の構成は、前半が著者の次第に悪化していく詳細な精神症状と、医師による相次ぐ誤診、診断が確定されない中どんどんと精神状態が悪くなっていくさまと困惑する周囲の記述は、ホラー小説を読むかのよう。

 

実は私は読む前から診断名を知っていたし、精神科医でもあるので、この前半は読み進めることが非常に辛かった。我が身を振り返っても、24歳という若さで幻覚・妄想が出て来た場合、統合失調症ないしは双極性障害と診断してしまう可能性は高い。あえて言えば、突然の発症、それまでの社会適応からして、『この人がこんな症状を呈するのだからそこには何かがあるには違いない」という確信が持てた時に、見かけの症状からの診断を疑うことができ、徹底的な検査を繰り返すだろう。

 

スザンナ・キャラハンは何度も、精神疾患の確定診断から長期に不毛な治療へと導入される危機にさらされた。高名な神経科医からきっとこれは器質的な(身体に原因のある)疾患だと疑われて血液検査を受けても正常だったこともあり、一時は匙を投げられる。本人が書くように、本当にたまたま同じ病気を疑える病理に詳しい医師に出会えたこと、その医師でさえ3年前に経験していなければ果たして診断が出来たかわからない。

 

診断に至るまでの間、離婚してバラバラだった両親との絆、そしてボーイフレンド(恐らく彼も若いだろうに!)の示す彼女への献身的な愛情が本人を支え続けた。信じがたいほどの彼女への愛と信頼だと感じられた。諦めなかった彼らに感動する。

 

 

映画化されてるんだ。へえ。

eiga.com

 

HARD THINGS

HARD THINGS

 

 

昔懐かしいネットスケープナビゲーター開発者が書いた本。経営術だが、正直で実践的な内容をblogに書いていたのを本にしたようだ。

彼は今成功しているファンドマネージャーとして認識されているが、たとえ、現在が成功した経営者であっても、その過程は平坦ではなく、絶望し、破滅の一歩縁まで足をかけている状態を経験しているようだ。

筆者はその時の心情を赤裸々に書くと同時に、極めて実践的なアドバイスを限界を示しつつ読者に提示する。
私にとっては、これまでやってきた仲間である親友を切る、袂を分かつ、そのやり方が大いに参考になった。

 

ベン・ホロヴィッツは今や成功投資家らしい。投資家ってどうやってなるのよ。

 

垂直の記憶 (ヤマケイ文庫)

垂直の記憶 (ヤマケイ文庫)

 

 

山野井泰史氏は、登山好きな人なら多くの人が知る日本というか世界を代表するクライマー。テレビの情熱大陸で紹介されたことがあり、動画検索してまずはどんな人かを知ってもいいかもしれない。妻の妙子氏も世界的なクライマーであり、夫婦2人で難所にアタックしている。

 

夫婦共に、手足の指の多く(妙子氏はほとんど全部)を凍傷で切断しているのだが、特にその原因になったのが、2002年ギャチュン・カン北壁へのアタック。その様子は、沢木耕太郎「凍」にも描かれていた。「凍」で私が印象に残っているのが、8000mに迫らんとする断崖絶壁でロープをブランコのようにして夫婦2人耐え忍んだ情景。

 

本書ではその、凍傷で指を失ったアタックの様子を本人、一部は妙子氏の記述を交えつつ知ることができる。

 

なんつーか、ギャチュン・カン北壁へのアタックも、妙子氏の調子が上がらず、「降りる」といっても泰史は普通に頂上までのアタックを続行するし、雪崩にあって妙子氏が落下したなかで、泰史は助けに向うわけだが、目も見えなくなるわ、厳寒の中で指先で岩肌を探るために既になるわ、ともう読んでいられないような記載が満載で、心臓に悪いったら。

 

絶壁を降りきった後も、仲間の居るキャンプまでは氷河上を延々と歩く必要があった。食事も殆ど出来ず、体力は限界な中、最後に泰史は歩みの遅い妙子氏を置いてキャンプまで先行することを決め、生きて再会できるかわからない妻の写真を撮る。2人とも生きていることを知って読んでいるはずなのに、本当に大丈夫なのかという気持ちが頭を離れない、そんなギャチュン・カンのアタックが最終章。

 

他の章でも泰史氏のほとんどがソロ(単独)で難所へのアタックをする中での氏の思考過程やら、名クライマーならではの技術的記載などがあって、時折読むのが辛くなりつつも夢中で読める。

 

泰史氏は、山で死ぬことが出来たら後悔しないようだが、頼むから死んでほしくないと、一読者として強く思う。

 

 

凍 (新潮文庫)

凍 (新潮文庫)

 

凍はこっち。文章は作者らしくかっこいい。読んだの昔なので、印象に残っているのは、絶壁ブランコのみ。

 

天才の栄光と挫折―数学者列伝 (文春文庫)

天才の栄光と挫折―数学者列伝 (文春文庫)

 

 天才といえば数学者。

 

著者はすでに「心は孤独な数学者」において、ニュートン、ハミルトン、そして史上最大の天才ラマヌジャンについて1冊にまとめているが、本書はそれを凝縮してさらに関孝和、ガロワ、コワレフスカヤ(女性!)、チューリング、ワイル、そして現代のワイルズを加えている。どの人物も大天才であり、そして著者が栄光と挫折と書いている通り、ワイルズを除けば、最後は挫折や苦悩の中で亡くなった一生を送っている(というかそういう風にまとめている)ために読後感としては切なさが残る。ワイルズだって、サイモン・シンフェルマーの最終定理」にもあるように、証明をもたらした谷山・志村予想をめぐる逸話は哀しすぎる。


関孝和について、彼は沖方丁天地明察」で名を知られた渋川春海と同時代に生きていたことは小説でも印象的に語られていたが、本書での春海との間柄は小説のそれとは全く異なる。本書の著者にとって、数学をしっかりと理解していなかった春海は無能に思えるらしく、関のような天才と並び称すことは許せないし、小説にあるような形で関が春海を見守ったとは絶対に思えないようだ。「天地明察」を読んだ方は、2人の間柄についてここまでコントラストが違うことに興味が湧くのではなかろうか。

 

天地明察(上) (角川文庫)

天地明察(上) (角川文庫)

 

噂の天地明察はこちら。 ちょっとした記述の間違いは、気になってしまう。ストーリーは面白いですよ。

 

 

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

 

で、アンドリュー・ワイルズ が如何に証明したかを綴っているのがこれ。ノンフィクションのオールタイム・ベストの1つ。いつかご紹介。

 

 

満州、室町少年、大助少年、ペリリュー

五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後 (集英社文庫)

五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後 (集英社文庫)

 

 

今年上半期No.1かな。とても良かった。満州に建国大学という五族協和を謳った大学があったこと、そして学生たちは本気でそう考えていたこと、優秀な学生たちの戦後がどの国民であったか、というかどこで終戦を迎えたかによって如実に違っていたという事実に驚き、ショックを受け、そして感動する。著者は私と同い年だが、35歳時の取材によるという。インタビューから諸事情により出版までは4年以上かかった。証言者すなわち建国大学卒業生は当然ながら80-90台のご老人たちで、証言を得るには本当に最後の機会だった。出版時にはインタビューした何人も亡くなっているのだから。この本が存在できたことが奇跡のようにも感じられる。尚、個人的にある意味衝撃だったのは戦時中残酷な指示を次々と出し、サイコパスとしか思えない辻政信が、建国大学教官であったこと、そして学生たちへの態度はまさに良い教師そのものであったこと。人間の持つ二面性を示すと言うか、彼にとっては実験場だったのか。

 

そういえば、私の患者さんに実は満州鉄道高官のお嬢さんという方がいらっしゃる。いかにも歴史の証人という方からのお話が聞けてとても感銘を受けたのだが、同意も得ていないのでここには書けず残念。

 

室町少年倶楽部 (文春文庫)

室町少年倶楽部 (文春文庫)

 

 

山田風太郎さんは室町のことも書いているのね。主人公は8代室町将軍足利義政、だが、前半は彼に使える細野勝元とその舅山名宗全について詳しい。彼らは、そう、応仁の乱の主人公。若いときの細川勝元とか、才気と正義感あふれる好漢で、義政少年を、素晴らしい君主とすべく一生懸命指導する。ほんとにそうだったのかは置いといて...そんな勝元と義政の夢の破れ方というか、なぜああなっちゃったの?という過程が面白く描かれていて、普段馴染みのないこの頃の人達に共感を持てること必至。特に、足利義政は確かにしょうもない人だったと知ってはいても管領細川勝元とか、山名宗全の人となりまで含めてイメージの湧く人は少ないだろう。この時代に応仁の乱が勃発し、それは戦国乱世へと繋がっていったのだが、義政が義政でなかったら、つまり政治を離れ、文化に傾倒していなかったら今残るこの時代の遺物は相当寂しく、また文化の発展も遅れただろうと想像する。作者が義政にセリフとして言わせているとおり、現代の我々にとっては義政が居てくれて本当に良かったとは思う。

 

秀頼、西へ (光文社文庫)

秀頼、西へ (光文社文庫)

 

 ドラマ「真田丸」観た人で、主人公真田幸村の嫡男、真田大助と幸村との父子の別れに涙しなかった人はいないだろう。大阪夏の陣、序盤の豊臣方有利に進む中、秀頼の大阪城からの出陣を促すために使者として派遣された大助。幸村の側を離れたくない大助を諭し、別れる場面では他の将たちも涙したという。その後、結局は豊臣方が敗北、大助は大阪城内で自刃して果てる。わずか14歳。

 

というのが史実だけど、真田幸村・大助親子や豊臣秀頼が大阪の陣で死なずに薩摩に逃げ去ったという伝説があったりして、現に彼らの墓所が存在する。そんなファンタジーを小説にしてくれたこの本。彼ら、といっても幸村は無理だけど、大助・秀頼の逃避行を描くのがこの小説ですよ。個人的にあの大阪の陣で最も悲劇性を感じたあの真田大助の死。その大助がもし生きていることができたら…という夢想を叶えてくれているこの作品に私は救われてしまう。もちろん、それを抜かしても面白いですよ。

 

 

ペリリュー・沖縄戦記 (講談社学術文庫)

ペリリュー・沖縄戦記 (講談社学術文庫)

 

 この本だけはkindle本じゃありません。

太平洋戦争を描いたアメリカドラマ、「パシフィック」観た人、いるでしょうか。ドラマの原作の1つがこれです。著者のユージーン・スレッジハンマーはドラマの主人公の1人でもある。*1

彼は医者の息子で、愛国心はあるもののどちらかといえばひ弱に見られがちな若者だったようだが、工科大学を中途でやめ、陸軍海兵隊に志願して入り込む。そして体験したのが、ペリリュー島硫黄島、そして沖縄における日本軍との苛烈な戦いである。ペリリューはNHKでも特集があったが、戦闘中にアメリカ軍にとって戦略的に無意味になったにもかかわらず攻防が続き、日本軍がほぼ壊滅、勝ったアメリカ兵も多くの死傷者と精神崩壊者を出した激闘の場になった。正直私は、太平洋の多くの島で日本軍が玉砕したことを考えると、アメリカは一方的に、そして楽に勝ったかのように認識していた。が、パシフィックを観、本書を読めば、決してそんなことはなく、前線のアメリカ軍兵士にとっては余裕などかけらもない、苦しい戦いの連続であったことがわかる。

沖縄での民間人を交えたいくつかのエピソードは特に印象的で、人間性を失わないと敵側を殺せなかった兵士たちが、民間人を極力犠牲を払わないように、人道的に扱おうとしていた部分と、民間人に対してさえ人間性を失う一部兵士によって様々な被害があったこともわかる。

さて、苛烈な戦争を体験して帰国した彼らを母国は英雄として称賛したものの、スレッジたち兵士はあの戦いを理解してもらえず、また兵士たちからすればのうのうと過ごしていた母国の人間との間の気持ちのすれ違いは大きかったようだ。

第一次大戦に従軍したイギリス人の詩がまさに気持ちを表しているという。

 

あなたたち 乙に澄ました 燃ゆる瞳の群衆よ

若き兵士の行軍を 歓呼で見送る人々よ

家に帰って 祈るがいい あなたたちにはわからない

若さと笑いの行くところ それが地獄だということが

 

スレッジは随分苦しんだ後、生物学の教授になったという。良い人生を送ったと感じてくれたのなら嬉しいのだが。帰国後日本をどう思っていたのか、気になる。

 

今日の関連本と漫画をいくつか。

 

キメラ―満洲国の肖像 (中公新書)

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応仁の乱 - 戦国時代を生んだ大乱 (中公新書)

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真田信繁 幸村と呼ばれた男の真実 (角川選書)

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ペリリュー ─楽園のゲルニカ─ 1 (ヤングアニマルコミックス)

ペリリュー ─楽園のゲルニカ─ 1 (ヤングアニマルコミックス)

 

 

 

www6.nhk.or.jp

 

 

 

*1:パシフィック、アメリカ側から描いてますが、決して日本を一方的に悪く描いたりしていない。というかアメリカ兵の残虐な部分も描いている。アマゾンプライムで見放題。お得すぎ。